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第一話 ②

ผู้เขียน: 上守葉
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-11-30 04:16:37

 火族かぞく四家の当主と灯守とうもりは、つがい契約を結ぶ。

 俺たちにとって番とは、婚姻だの伴侶だのを示す言葉ではない。

 当主と灯守とうもりは二人で一つの存在であるという意味であり、俺たちは常に行動を共にしなければならない。

 ──当主となる者は灯守とうもりの力を宿す刀を持つ事を許された者であり、灯守とうもりはその刀に力を灯せる唯一の者である。

 俺が明神家に入る時に、当時の当主だった爺さんはそう言って俺に刀を与えた。

 当時まだ木刀でしか訓練をしていなかった俺に、その刀はやたらと重かった。

 今は腰にないと落ち着かないくらいなのに、そんな時期も俺にはあったのだ。

《此処に在りしは、焔の御子──》

 夜道を駆ける俺の前方で、角灯ランタンを持っていた先生がうたい始める。

 灯守とうもりが刀に火を灯す祝詞。

 彼の持つ火種の角灯ランタンの火が、色のない先生の髪をほのかに赤く、炎のように照らす。

 唯一この瞬間だけが、人外じみた彼に色が乗るのを、俺だけが知っていた。

灯籠とうろうの火よ、夜を裂き、住処を照らし、我がともしびもっけがれを断て》

 強く踏み込み一気に先生を飛び越して、跳ぶ。

 同時に刀を抜き、〝なにもない〟空間を赤く輝く刀身で薙ぎ払った。

 ──〝なにもない〟。

 眼の前にあるのは、真っ暗な闇であり、色で言えばただの黒い壁だ。

 しかし俺たちは、その色が何を意味するもので、何がその色を生み出しているのかを、知っている。

 甲高く、しかし濁った声のような音が夜闇をつんざく。

 帝都の闇は、真っ暗ではない。

 配備され始めた街灯は夜にも大通りを照らし、その灯りは裏通りもほんのり照らす。

 家の軒先だって、人々が貰いに来る火種の欠片が入った角灯ランタンで輝き、家と家の隙間すらもがうっすら明るい。

 そんな中で、真っ黒い闇。

 それは明らかに異質なものでしかなく、人々には本能的な恐怖を与える。

 俺たち刀主とうしゅは──刀主と灯守とうもりは、その闇を祓う役目を負っている。

 刀主たちの家に仕える刀持ちたちもまた、日々命をかけて帝都の警護についているのだ。

「ソウくん、向こうに大型のが居るよ」

「刀持ちたちは?」

「気付いてない。壁みたいな夜住よすみだから、認識を曲げられているのかも」

「わかりました、今向かいます。後は頼んだぞ」

「はっ!」

 先に到着していた刀持ちたちに《煤祓い》を任せて、俺は先生の灯りの示す先に向かった。

 赤い光に支えられるように宙に立つ先生は、夜闇の中では文字通り浮いて見える。

 しかし刀主の周囲に仕える刀持ちたちは、その光景にはすっかり慣れていてすぐに箒を手に走り出した。

 夜住を祓った後には、夜住の煤が遺る。

 まるで最後まで生にしがみつくようなその煤は、結局人間が集めて始末をするしかない。

 刀持ちたちの中にはその煤を集める役目の者が居て、彼らは煤の目立つ真っ白な衣装を着ている。

 煤が身体に残って、夜住に取り憑かれるのを防ぐためだ。

 彼らの役目もまた、命がけのものだと言ってもいい。

 そうして集められた煤を、夜住を祓う火種の燃料にするのだ。

 なんとも皮肉な循環だとは思うが、もう何代も続いてきた戦い。

 帝都が帝都と呼ばれるようになる前から、刀主を筆頭とした刀持ちたちが祓い続けてきた呪いだ。

 それを……じきに俺が引き継ぐ。

「お兄ちゃーん! 応援に来たよっ!」

和穗かずほか。こんな夜中に子供が出歩くもんじゃないぞ」

「あたしだって次期当主なんだから、夜が主戦場でしょっ!」

 先生の白い影を追いながら駆けていると、横道から俺よりも頭一つは小さい少女が合流してきた。

 御神苗和穗おみなえ かずほ

 同じ刀主を排出する火族四家・御神苗家の次期当主だ。

 だが彼女はまだ17に達したばかりの子供だ。

 女学校にも通わず、俺たちと共に刀ばかり振って、すっかり行き遅れ気味だ。

 そんなことも気にせずに、彼女は己の身の丈ほどの刀を器用に抜き払ってみせた。

上守葉

用語集 灯守の祝詞:火族四家それぞれの灯守が別個に持つ祝詞。刀主の刀に灯し火を宿す時に唱われる。 煤祓い:倒した夜住が残す煤を始末する役目。刀持ちだが、主に煤の対処を担当する特別な役目。

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